藤本健のDigital Audio Laboratory
第607回:iPhone 6 PlusとiOS 8のハイレゾ/DTM関連まとめ。iOS 8適用はしばらく様子見?
第607回:iPhone 6 PlusとiOS 8のハイレゾ/DTM関連まとめ。iOS 8適用はしばらく様子見?
(2014/9/22 14:10)
日本時間の9月18日未明にiOS8がリリースされ、19日にはiPhone 6、iPhone 6 Plusが発売された。毎年、この時期にiPhoneを新しく買い替えるのも、かなり無駄なような気もしているが、きっとそれなりのネタもあるはず……、と今年も購入してみた。選んだのはiPhone 6 Plusのほうで64GBのモデル。
ちょっとでも安いほうがいいという思いから、SIMロックフリー版ではなく、これまでと同様auから購入するとともに、iPhone 5sの32GBモデルを32,000円で下取りしてもらった。下取りであっても、10日以内であれば手元に置いていても大丈夫とのことだったので、iPhone 5sとiPhone 6 Plusを並べながら、オーディオ機能に違いがあるのか、互換性に問題はないのかなどを見ていこう。
iOS 8でハイレゾ関連に変化はあった?
今回、iPhone 6とiPhone 6 Plus、どちらを買うべきか……と悩んだのだが、単純に新ネタが多そうということでPlusを選んだ。事前情報で「Plusは1万円札とほぼ同じ大きさ」と言われ、まあ、それならたいした大きさではないか……、と選んだのだ。が、auショップでの受け渡しの日に、初めて実物を見てだいぶ後悔した。想像していた以上にデカいのだ。パッと見、iPad miniみたいだと思ったほどで、これで電話をするのは、さすがに恥ずかしい気がする。そのうち、iPadで電話をする人も出てきそうな気もするが、個人的には小さいほうが好きなので、ぜひ次回はiPhone 7 miniの登場を期待したいところだ。
一方、とりあえず手元に残っているiPhone 5sは比較用のためにiOS 7のままにしておくほうがよかったとは思うが、iPhone 6 Plusを待ちきれず、9月18日の午前中にはiOS 8にアップデートしていた。まあ、iOS 7のままのiPod touchもあるので、状況に応じて比べていくことにする。
iPhone 6 Plusは、カメラの手振れ補正機能であったり、iOS 8で新たに加わったiCloud Drive、ファミリー共有機能、タイムラプスのようなビデオ回りの機能……と、いろいろな新しい点があるようだが、それらはAV Watchでの他の記事などに譲るとして、ここではオーディオ回り、DTM系機能についてチェックしていくことにしよう。
さっそくiPhone 6 Plusを起動させてみると、なるほどデカイ画面だけあってい、解像度も上がって1,080×1,920ドットのフルHD。表示されるアイコンの数も横4×縦6と一段増えている格好だ。ただ、iOS 6からiOS 7に変わったときのような驚きはなく、見た目はiOS 7とあまり変わっていないから、新鮮味はないのが実情といえる。
まずは、単純な部分から見ていきたい。iPhone 5sとiPhone 6 Plusをオーディオ機器としてみたとき、音に違いがあるのか、という点についてだ。今回、細かく周波数チェックなどはしなかったが、それぞれで同じ曲を再生してヘッドフォンを使って耳で聴いてみたところ、かなりソックリな音だった。最大レベルにしたときの音量は聴感上ピッタリ同じ。交互に何度も試聴してみたところ、なんとなくiPhone 6 Plusのほうが解像度が高いかも……という気がしたのだが、たぶん気のせいというレベルだった。
一方、内蔵スピーカーで音を出してみると、筐体の大きさの違いなのか、スピーカーの口径が違うからなのか、iPhone 6 Plusのほうが、より低い音が出ることは確認できた。もっとも、小さいオマケのモノラルスピーカーなのだから、これでオーディオ性能をどうこう言うものではないと思うが、違いがあったのは確かだ。
ここからが、本題。iOS 8でのアップデートポイントについては、すでに6月のWWDC 2014において発表はされていたが、期待していたハイレゾ対応という公式発表はなかった。ただ、春ごろいろいろなサイトにおいて、「iPhone 6ではLightning端子の仕様が変わって、192kHz/24bitが通るにようになる」、「iPhoneに入っているDACはスペック的にハイレゾ対応している」、「iOS 8もハイレゾ対応するのでは? 」なんて情報が出ていたので、もしかしたら……と思い、いろいろと試してみたのだ。
最初はiOS標準のミュージック機能に、PCのiTunesからハイレゾ音源を転送できるのか、という点から試してみた。以前、「Apple Losslessのハイレゾは、iPhone/iTunesで本当にハイレゾ再生できている?」という記事を書いたときは、96kHz/24bitのApple Losslessは転送することができなかったが、iOS 8になって変わったということはないだろうか?
用意したのは96kHz/24bitのApple Lossless(ALAC)データと、同じく96kHz/24bitの非圧縮WAVデータ。これをiTunesでの転送を試みたが、結局ダメだった。iPhone 5sへ転送しようとしても、iPhone 6 Plusに転送しようとしても、結果は同じであった。
では、ハイレゾ対応のアプリを使えば、iPhone単独でハイレゾのネイティブ再生ができたりしないのだろうか……。これを確認するため、これまでも使ってきた2つのアプリを用意してみた。一つはオンキヨーのHF Player、もう一つはFLAC Playerだ。まずは、HF Playerのほうから見ていこう。HF Playerの標準機能である、iPod再生機能(ハイレゾではないiTunes転送楽曲の再生)は、当然のことながら、まったく問題なく再生することができた。
オプション機能であるハイレゾ再生を行なうHD機能のほうは、FLACおよびWAVの96kHz/24bitのデータの再生ができるはずなので、これをiTunes経由で転送。そして、HF Playerで再生してみると……。なぜか再生できない。プレイボタンを押した瞬間に止まってしまい、進まないのだ。もしかしてiPhone 6 Plusの問題なのかと思って、iPhone 5sで試してみても、iOS 8を入れたiPad miniで試してもまったく同様だった。改めてiPhoneを確認すると、iCloudのバックアップからリストアした際、曲のリストだけがインポートされていて、曲データ自体はリストアされていなかった。そのため、改めて曲を転送し直したところ、ハイレゾ楽曲も再生できた。
【訂正】記事初出時、「HF PlayerでHD機能のハイレゾ再生ができなかった」としていましたが、曲を再度転送したところ再生できたため、記事に追記・訂正しました(9月23日23時12分)
次にFLAC Playerで試してみた。やはり96kHz/24bitのFLACデータを転送して、iPhone本体のヘッドフォン出力から出してみた。こちらもしっかり再生できる。が、問題はハイレゾとして再生できているのか、という点だ。ご存じの方も多いと思うが、FLAC Playerの場合、接続されているDACが何であるかを自動判断し、それにマッチした形式にサンプリングレートコンバートして再生するようになっている。そして、何が接続されているかを表示することが可能になっているのだ。具体的にはAudio Hardwareという項目のSample Rateというところだが、これを確認したところ「48000Hz」とあり、残念ながら内蔵オーディオ機能はこのアプリからハイレゾ機器とは認識されないようだった。
では、外付けのUSB DACやオーディオインターフェイスを接続した場合はどうなのだろうか? これについては、従来のiOS 7でも48kHz/24bitはもちろん、88.2kHz/24bit、96kHz/24bitでの出力ができたわけだが、これが大丈夫なのか確認してみた。とりあえず試してみたのはラトックシステムのRAL-DSDHA1とPreSonusのAudioBox 44VSLのそれぞれ。従来と同じようにLightning-USBカメラアダプタを使ってUSB接続して試してみたのだ。結果的には、どちらも問題なくハイレゾでの再生ができ、RAL-DSDHA1では96kHzにランプが点灯することも確認ができた。
ここまで見る限り、オーディオ機能という面ではiOS 7もiOS 8も違いはなさそうだ。
DTMアプリやオーディオインターフェイスの動作をチェック
次にDTM系の機能についても違いを簡単に見ていこう。まずDAWやソフトシンセ、エフェクトなどDTM系のアプリを起動すると、最初にAudiobus(異なる音楽アプリ同士を連携させるアプリ)に関するエラーが表示される。とりあえず、無視してそのまま進めれば問題なく使えるようだが、何とも気持ち悪い。実は、iOS 8のリリース直後ではApple純正のアプリであるGarageBandですらエラーが出るという始末で、どうにも困った状況だったが、その日のうちにGarageBandやMobile Pod、Cubasis、MultiTrack DAW、NLogSynth PRO……とアップデータが登場し、Audiobusエラーが解消されるようになった。
ご存じの方も多いと思うが、AudiobusはiOSの標準システムというわけではなく、サードパーティーであるAudiobusが開発したDTMシステムを連携させるためのシステム。こうしたサードパーティー製のシステムをApple純正品までもが組み込んでいるというレアケースなわけだが、実はAudiobusのSDKにバグがあった模様で、従来のアプリをiOS 8上で動かすとエラーになっていたのだ。iOS 8登場直前にリリースされたAudiobus 2.1.3 SDKというものを組み込んだ上でコンパイルすると問題なく動くのだが、それはユーザーにはできないことなので、アプリメーカー側の対応を待たざるを得ないところ。9月21日現在、まだ対応できていないものが多いので、エラーが生じるケースが多い。
なお、Audiobusと関係があるかどうかわからないが、Positive Gridのギターアンプシミュレータ、JamUp XTなどは、このエラー表示の後、落ちてしまうし、iOS 8にアップデートしたiPad miniでコルグのiMS-20やiPolysixでもアプリ起動画面表示後に落ちてしまうなど、不具合のあるアプリも少なくなかった。
続いてチェックしてみたのがハードウェアだ。オーディオインターフェイスやMIDIキーボード、MIDIインターフェイスなど、DTMでは外付けハードウェアを利用するケースが多いが、Appleの認定のもの、直接Lightning端子に接続できるもの、Lightning-USBカメラアダプタを経由して接続するUSBデバイスなどあるが、これらについては一通りどれでも動くようだった。すべてを試したわけではないが、とりあえずテストしてみたものとしては先日取り上げたZOOMのiQ6、iQ7、APOGEEのDuet for iPad & Mac、Line 6のSONIC PORT、MobileKEYS、IK MultimediaのiRigKEYS、iRigProなど、Lightning端子をネイティブでサポートしている機器は一通り問題なく動作した。
さらにLightning-USBカメラアダプタを使うものとしては、先ほどのAudioBox 44VSLのほか、ローランドのDUO CAPTURE EX、SteinbergのUR44といったオーディオインターフェイス、さらにはコルグのnanoKEY、ローランドのA-PRO300などのMIDIキーボードも一通りOK。また、DOCK接続の古い機材も試してみたが、TASCAMのマイクiM2やヤマハのMIDIインターフェイスi-MX、Line6のMIDIインターフェイス、MIDI Mobilizer……とどれも問題なく動くようだった。
新機能「MIDI over Bluetooth」は対応製品の登場に期待
一方気になるのがiOS 8での新機能。WWDC 2014で「MIDI over Bluetooth」なるものが発表されており、Bluetooth LEでMIDIを飛ばせる機能が実装されているようなのだ。これはアプリ側の対応が必要となり、9月18日にリリースされたGarageBand 2.0.2を見ると、それらしき機能が追加された。
ただし、Bluetoothの接続にはホストとクライアントのそれぞれが必要となるが、GarageBandが対応しているのはクライアントのみであり、いまは接続する相手がいない状況なのだ。この辺は今後、ホストとなるアプリやハードウェアなどが登場してくるのを待つしかない。それまでは、しばらくお預けといったところだろうか。
以上、駆け足ではあったが、iOS 8およびiPhone 6 Plusでのオーディオ環境、DTM環境についてチェックしてみた。ここまで見る限りでは、現時点においては、まだiOS 8にすることでの直接的なメリットはなさそうだ。また、これは音関係のアプリとは別の話だが、従来のiPhoneやiPadとも異なる1,080×1,920ドットという解像度になったのもややトラブルが起こりそうなところ。事実、コルグのiKaossilatorなどが画面表示がおかしくなってしまうし、TR-707を再現するmobileRhythmなどは画面を横にすることができずに、半分切れた形になってしまうなど、問題あるアプリも少なくない。急いでiPhone 6やiPhone 6 Plusを購入したり、iOS 8へアップデートしなくても、もうしばらく様子を見ても悪くないように思う。