DRM、GPLv3で見解を同じくするStallman、Torvalds、Moglenの三氏
FSFが、DRMをユーザーの自由を制限するものと考えるのはなぜか。その理由を理解するには、copyleftの意味とGPLの要諦を知る必要がある。GPLはcopyleftの次の4条項を支持する。
- ソフトウェアを使用する自由
- ソフトウェアを複製して共有する自由
- ソフトウェアを変更する自由(これはソースコードの提供を要請する)
- 変更後のソフトウェアを実行・頒布する自由
FSFが反感を覚えるのは、上記の2つの自由(3.と4.)を阻む目的でDRMが使われる点にある。FSF創設者Richard Stallman(RMS)は、この状況をTivoization(TiVo化)と呼ぶ。これは、TV番組を内蔵ハードディスクに録画して後で再生するTiVoというデジタルビデオレコーダに由来する用語である。TiVoはLinuxベースのソフトウェアで動くので、GPLが適用される。すなわち、ソースコードが入手でき、ユーザーはソースコードを変更する権利を有し、さらに変更後のソースコードを実行する権利を有す。
しかし、TiVoではそうはいかない。
TiVoのLinuxベースソフトウェアのソースコードは、変更できても実行できないのである。同製品のDRMの執行の結果、変更後のコードをそのシステム上で実行することが封じられるからだ。これはGPLで規定された条項やそれが保証する自由と矛盾する。この点でDRMは一種の制限(restriction)となる。ユーザーは変更後のソースコードを実行する権利の行使を制限されるのである。
署名キー
このソフトウェアにはTiVoのメーカーによってデジタルキーが組み込まれる。ソフトウェアのダウンロード後にチェックされるmd5sum値のようなものだ。ダウンロードしたソフトウェアのmd5sum値とソフトウェアのサイトに掲載されているmd5sum値を照合してソフトウェアの完全性と真正を確認できるというわけである。
TiVoについて言えば、デジタルキーはソフトウェアがTiVoのメーカーによって作られたものであることを確実にする。ソースコードを変更して再コンパイルするとデジタルキーが一致しなくなり、それを知ったシステムが変更後のソフトウェアの実行を封じるのである。
TiVo化が起こるのはTiVoだけでない。GPLの保証する自由を制限するようなDRMのあらゆる執行に適用されることに注意する必要がある。
GPLv3では、次のようなデジタルキーを提供することがソフトウェアメーカーに明示的に要請される。すなわち、ユーザーがソフトウェアを変更して変更後のソフトウェアを実行したいと望むなら、変更後のソフトウェアでメーカー提供のデジタルキーを使用してソフトウェアを実行できることが必要だというのである。6月にバルセロナで開催されたGPLv3の第3回国際会議でRMSはこう述べた。「特定の署名キーで署名しなければそのバイナリを実行できないようにハードウェアを設計してもよいが、変更後のバイナリを署名できる署名キーを提供しなければならない。つまり、そのバージョンを実行するために認可が必要なら、そのために必要なものは何でも提供しなければならない」
しかし、Linuxの創作者であるLinus Torvaldsはこれに関連する問題を抱えている。彼によれば、Linuxカーネルに署名するのはLinus自身であり、それで全員に伝わる。「これは信用してよい。私が出所だから」とLinusは言う。4月23日にLKML(Linux Kernel Mailing List)に投稿したメールの中で彼は2つのタイプのキーが存在すると述べている。「1つはカーネルに適用される外部キー(無論、ライセンスに含まれない)で、もう1つはカーネルに埋め込まれるキーだ」
GPLv3の規定はこうだ。すなわち、GPLのもとで提供するソフトウェアにキーを埋め込む場合は、そのキーをユーザーが入手できるようにしなければならないが、それは最初のタイプのキーを必要とするものであってはならない。LinusはLinus自身の署名キーを配布することは決してないと述べてきたが、GPLv3はLinusにキーを公開せよとは要求していないのである。彼の語るキーはカーネルが信頼してよいものであることを示すためにだけ存在し、copyleftの要件である自由を阻むことは決してない。一方、埋め込みキーはcopyleftの自由を無効にするために使われる可能性があるので公開されなければならない。
Linusは、メーカーがデジタルキーをどう使うかはライセンスが決めることではないと再三主張してきた。彼によれば、キーはファームウェアであり、従って、ソフトウェアライセンスがそれをコントロールする余地はなく、その理由もないという。
Eben Moglenはバルセロナの会議の間中、この問題を解決するために努力した。FSFの相談役とSoftware Freedom Law Centerの会長を兼務するMoglenは、こう述べている。「皆さんは、DRMについて多くの話を聞くことになるでしょうが、それは我々がソフトウェア以外の問題を解決するためにソフトウェアライセンスを何とか使おうと努力していることの現れです。これほど事実とかけ離れた話はありません。我々はソフトウェアの問題に取り組んでいるのです。….ところで、ライセンスに勝手に手を加えることが法的に許されないように、ハードウェアに手を加えてライセンスの網をうまくくぐることも許されません。これは当たり前の主張です。こちらがだめなら、あちらもだめというわけです」
GPLv3だけじゃない
通説に反し、DRMの廃棄を宣言した最初のライセンスはGPLv3ではない。Against DRM 2.0は、アートワークのための無料のcopyleftライセンスだ。このライセンスの第6節に次の記述がある。
ライセンサーの認可した活動かどうかにかかわらず、テクノロジ、デバイス、コンポーネントがその通常の運用下で活動を阻止または制限するよう意図されている場合、本ライセンスは当該テクノロジ、デバイス、コンポーネントと両立しない。この非両立性は本ライセンスを成果物に適用しないことの根拠となる。
特記事項:
- 本ライセンスのもとで次の成果物もしくは派生成果物を公開することはできない。すなわち、成果物のアクセス制御機構/コピーコントロール機構が成果物のアクセス、成果、複製、変更、共有を量的/質的に阻止または制限する場合、そのような成果物を公開することはできない。
- 本ライセンスの規定のどおり、アクセス制御機構/コピーコントロール機構を通じて成果物もしくは派生成果物のアクセス、成果、複製、変更、共有を量的/質的に阻止または制限することはできない。
- 本ライセンスの規定どおり、デジタル、アナログ、もしくは物理的な手法で付与された権限の行使を阻止または制限することはできない。
Creative Common Attribution-ShareAlikeライセンスにすら反DRM条項がある。その4.a節は次のとおり。
本ライセンス契約の条項と矛盾する方法で成果物のアクセスや使用をコントロールする技術的措置が存在する場合、それを含む形で成果物を配布すること、公然と表示すること、公然と上演すること、または公然とデジタル的に実行することは許可されない。
“技術的措置”(technological measures)はDRMを指す。GPLv3ドラフト第2版にも同様の文言がある。第3節のタイトルは「技術的措置でユーザーの権利を阻まないこと」(No Denying Users’ Rights through Technical Measures)である。
結論
FSFとStallmanは、DRM自体に何も問題はないと思うと繰り返し述べてきた。GPLの条項と自由を守りたいだけなのだ。DRMだけでcopyleftの4つの自由が邪魔されることはない。GPLv3では、それを明らかにするための方策を講じている。
最近、Moglenは「変更の権利を保持しながらその変更の権利を譲渡しないのはライセンス違反だ」と述べている。FSFによれば、「GPLv3はDRM機能の実装を禁じていないが、ユーザーにそれを削除不能な方法で押し付けることを封じている」という。Moglenは、変更を加えたソフトウェアが使われた場合に保証を無効にしてサービスを提供しないのはメーカーにとってもよいことだと述べている。
DRMについては、8月23日と24日の両日にインドのバンガロールで開催される第4回国際会議で広範な議論が行われることになっている。
Shashank Sharma — 現在、コンピュータサイエンスの学位を取得するために勉強中。専ら、初心者向けのフリー/オープンソースソフトウェアを書いている。
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