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TEDx創立者が語る「FNS27時間テレビ騒動」と「“広めるべきアイディアを共有する場”の在り方」

世界を変えるようなアイディアを発信することを目的として、アメリカで誕生した非営利団体TED。TEDxは、そのTEDよりライセンスを得たうえで、TEDにインスパイアされた人たちが地域ごとに集まり、一緒にコミュニティを作り上げていく経験とプロセスを共有する組織プログラムだ。TEDxのベースとなる部分はTEDと変わらないが、TEDxによるイベントは、その地域や組織によって個別に運営されている。

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© TEDxTokyo / Mchael Holmes

TEDxのルーツは2009年に開催された『TEDxTokyo』で、以来、TEDの理念である“Ideas Worth Spreading”(広めるべきアイディアを共有する場)は世界中に広まるようになり、国内では『TEDxKyoto』『TEDxTohoku』『TEDxSapporo』『TEDxWaseda』などが続々と誕生している。

その『TEDxTokyo』が、2015年に入ってメインステージを渋谷ヒカリエから恵比寿アクトスクエアに変更。イベントのスリム化をはかった。その直後、フジテレビが『FNS27時間テレビ』内でTEDのパロディ版を放送し、ネットで話題となったのは記憶に新しい。

一連の騒動のこと、TEDxTokyoをスリム化させた理由、今年初の開催となったTEDxHanedaについて、創立者のパトリック・ニュウエル氏に聞いた。

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© TEDxTokyo / Mchael Holmes

▲Patrick Newell(パトリック・ニュウエル)

アメリカ出身。TEDxTokyo代表。1991年より日本に在住し、教育活動家として25年にわたり世界各地の学習環境の変革と向上を目指した活動を行う。1995年に東京インターナショナルスクールを創設。2009年にTEDxTokyoをトッド・ポーター氏とともに立ち上げた。TEDxスピーカーのプレゼンテーション指導も行う。

『FNS27時間テレビ』TEDパロディ版について「正しいことをしてほしかった」

——フジテレビの『FNS27時間テレビ』で放映されたTEDのパロディ版が、TEDの公式ライセンスを取得していなかったとネットで騒がれていましたね。

パトリック・ニュウエル氏(以下、ニュウエル):フジテレビがTEDの許諾なしに番組を放映したことについて、多くの仲間が残念に思っています。番組内で話された内容は、私個人としてはシリアスであると感じました。とはいえ、TEDトークのクオリティーからはかけ離れていました。フジテレビ関係者が1時間番組で真似たくなるほどTEDに興味を持ってくれたことは嬉しいですが、そうであるなら正しいことをしてほしかったです。

——実際のTEDおよび、TEDxではどのようなことが行われているのでしょう。

ニュウエル:TEDxを開催する際は、TEDの公式ホームページからライセンス申請をすることができます。TEDxのルール、イベントタイプ、イベントの名前についても書かれてあります。

“TED=プレゼンテーション”と勘違いしている人が多いですが、TEDの活動はプレゼンテーションだけではありません。TEDの理念“Ideas Worth Spreading”には、アイディアを広めるためのあらゆる手段、たとえば音楽やアート、ダンスなども含まれています。プレゼンテーション・スキルは、そのうちのひとつにすぎないのです。それまで眠っていた脳を呼び覚まして新たなアイディアを生み出し、他の人のアイディアと結びつくことで、さらなるアイディアを生み出す。その連鎖反応をTEDやTEDxでは体感することができます。

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© TEDxTokyo / Akko Terasawa

——昨年、私は初めてTEDxTokyoに参加したのですが、登壇されたメロウ倶楽部エグゼクティブの“マーチャン”こと若宮正子さん(当時79歳)の全身を使ったプレゼンテーションに衝撃を受けました。会場中からスタンディングオベーションが贈られていましたよね。

ニュウエル:彼女にとって初のプレゼンテーションがTEDxTokyoのステージでした。本番でロックスターのように堂々と立ち居振舞う彼女を観たときは、私自身も衝撃を受けましたね。当初は年齢を気にして、ステージに立つことに不安を覚えていたのですが、それでもマーチャンは私たちが開催するプレゼンター向けのワークショップに足繁く通い、とても一生懸命に練習を続けました。その試行錯誤を繰り返した結果が、あのダイナミックな自己表現へと結びついたのだと思います。

毎年、ひとりふたり、マーチャンのように想定外のミラクルを起こすプレゼンターが出てくるのですが、そのミラクルを見るのが楽しみなんです。

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TEDxTokyoを立ち上げた理由

——今では世界中に広まっているTEDxイベントですが、なぜ日本で最初に開催することになったのですか。

ニュウエル:私は世界中を旅していますが、日本ほど創造性をかきたてられる国はないと思っています。一方で、日本人は自分のアイディアを放出することに苦手意識があって、卓越したアイディアがあるのに、それを表現することが苦手な人が非常に多い。その長所と短所が揃っていたからこそ、世界初となるTEDxを日本で開きたいと思いました。前例もなければ、ガイドラインもない。一から今のTEDxのかたちを築く作業は、とてもクレイジーでエキサイティングでしたよ。

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© TEDxTokyo / Mchael Holmes

——TEDの本拠地であるカルフォルニアの気質は、フレンドリーで、ノリがよい印象です。一見すると日本人の性格とはマッチしないようにも思えますが。

ニュウエル:私はまったくそうは思いませんでした。日本人は、構造やフレームワークを作ることが得意で、フレームワークさえ固めてしまえば、その中で自由な発想や発言をすることを臆さない。

例えば、「ここからの時間は飲んで、食べて、楽しんで!」とボスが宣言すれば、全員がそれに従う文化というのが日本企業にはあります。それを応用したのがTEDx。その運営方針は約140ページの運営マニュアルにまとめられており、世界中でシェアされています。

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Resume

特別なアイディアを内に秘めている人を選ぶ

——スピーカーの人選はどのように行っていますか?

ニュウエル:有名無名は問いません。特別なアイディアを持っているか否か。ただ、それだけです。もしくは、その人自身を輝かせているアイディアを内に秘めているか否か。至ってシンプルでしょう。

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© TEDxTokyo / Akko Terasawa

——とはいえ、よいアイディアの持ち主が、よいプレゼンターとは限りません。どんな人でも、練習さえすればよいプレゼンターにはなれるものですか。

ニュウエル:そのために、私たちはワークショップを開催しています。まず一番大事なのは、すばらしいアイディアを持っていて、それをシェアしたいという気持ちがあること、次に、自分以外の人とアイディアをシェアすることです。すると、どうしたらよりよく伝わるか、周囲の人が教えてくれます。ワークショップを繰り返すことで、アイディアは精鋭されていくのです。

もちろん、人前で正直に話すことに不安や恐怖を感じるプレゼンターもいます。そういう人は、自分が本当に話したいことと、話そうとしている内容に溝ができてしまっていることがよくあります。そんな時に役立つのがブレインストーミング。直接、プレゼン内容とは関係のない話を織り交ぜながら、プレゼンターが本当に伝えたいことに気づく瞬間までブレインストーミングを続けるのです。

——人を手助けするのが本当に好きなんですね。

ニュウエル:もちろん。それは私自身のエネルギー源でもあります。与えることとシェアすることでエネルギーが大きくチェンジしていくのです。それが醍醐味。

スピーカーも、オーディエンスも、それを支えるスタッフも、自分の内から沸き起こるエネルギーというものを変化させることが可能なんです。大ステージに立って緊張してしまうのは、数百人のエネルギーを一身に受けることに多くの人が慣れていないから。でも、そのエネルギーを自分自身で受け止められることができたら、まるで楽器を奏でるように、今度は自分がその人たちにエネルギーを与えることが可能となります。

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© TEDxTokyo / Julie Skogoreva

だから、MCをやる際も、私はシナリオを準備しません。私がステージに持っていくのは、スピーカーの名前だけ。あとは、その場その場でエネルギーの交換をします。まるで指揮者のように、目の前にあるエネルギーをプレイして、動かして、かきまわす。エキサイティングな体験ですよ。

原点回帰ーイベントの拡大より、ムーブメントの拡散を選択

——今年は渋谷ヒカリエから、恵比寿アクトスクエアに会場を変更して、動員数もグンと減らしていました。

ニュウエル:ふと立ち止まって、次のステップについて考えたとき、イベントを大きくしたいわけではなく、ムーブメントをより拡散していきたいのだと気付いたんです。

TEDxTokyoをスタートさせた7年前は、日本でTEDを知る人はほとんどいませんでした。けれど、今は多くの人がTEDもTEDxもTEDxTokyoも知っています。私たちは、自分たちのマインドや活動を知ってもらうために、これまで多くのことにトライしてきて、多くのムーブメントを起こしてきました。その結果、昨年、TEDxTokyoに参加したいという募集者が定員の5倍に膨れ上がり、会場は超満席。ヘリコプターを使ったフラッシュモブにも挑戦して、多くのメディアで取り上げられました。

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© TEDxTokyo / Mchael Holmes

ところが、その一方で、私も、私の仲間たちもプレッシャーで押しつぶされそうになって、イベントを大きくしよう、成功させようとするあまりに、自分たちが楽しめなくなっていたんです。ストレスを感じて、互いにイライラすることが多くなっていました。私自身、TEDxTokyoをもうやめたほうがいいんじゃないかと思うこともありました。

でも、私が最終的に出した答えは、TEDxTokyoをやめることではなくて、楽しくないと思う要因になっているプレッシャーをすべて取り払うことでした。

結果、次に進むべき道は、東京ドームで1万人を前にやることではなくて、今まで築き上げたムーブメントをさらに拡散することだと気がつきました。全国の大学や高校、中学校にTEDxのプラットフォームを広めていくことを新たな目標に定めました。

——今年のTEDxTokyoを振り返って、いかがですか。

ニュウエル:今年は小規模で、ゲストも200人に抑えて、自分たちのルーツに戻ることができて、よかったと思います。金曜日のレイトナイトショーのような雰囲気で、ジャズとブルースに包まれていました。インタビューも、ディベートも、ハウスバンドもあって、最後は会場にいた全員で踊りながら締めくくりました。ボランティアも入れ替わりがあり、新たに参加してくれた人が大勢いました。変化は大事です。

——新しい試みといえば、今年から始まった「TEDxHaneda」も随分と盛り上がったそうですね。

ニュウエル羽田でのイベントはとても楽しいものでした。あの場にいると、一日中、次はどこへ飛び立とうかと考えてしまう自分がいました。

TEDxHanedaのテーマは”Borderless”で、さまざまなアイディアが多くのボーダーを乗り越えて、シェアされていく、そんな意味が込められています。

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© TEDxHaneda Team

イベントのクライマックスは、三菱商事とJALの社長が、バンドが生演奏するなかでショートスピーチを終えたあと、会場となっている飛行機の格納庫の扉が開き、日没の間に飛行機が飛び立つのを皆で眺めた瞬間でした。そこにいた参加者の全員が、本物のボーダレスを感じていました。

これまでの軌跡を振り返り、ボランティアを含めたすべての人が楽しめるイベントであり続けること、ムーブメントやTEDxのプラットフォームを拡散させていくことを新たな目標に定めたニュウエル氏。「何か新しいことを始めるときに大切なのは、自分のフィーリングを信じることだ」と力強く語った。

文・取材=山葵夕子

参考書籍:『TEDパワー 世界と自分を変えるアイデア』パトリック・ニュウエル/朝日新聞出版

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