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ベトナムの生保市場

短期間でしたがベトナム(ホーチミン)を訪問する機会がありました。ベトナム訪問は2018年のハノイ以来、ホーチミンは15年ぶりでしたが、相変わらず若い人が多く、活気を感じました。

ベトナムの生命保険市場はまだまだ小さいものの、高い成長を続けているのだろうと勝手に思っていたところ、銀行による保険販売に関するトラブルが続いたこともあって、2023年に新契約が急減し、その後も回復に至っていないことがわかりました。そこで、備忘録を兼ねて、何が起きたのかを記しておきましょう。
ただし、保険市場調査のためのベトナム訪問ではないので、あくまで私の知り得た話ということで、情報源も非開示とさせてください。

ベトナムには1999年まで国営の保険会社(バオベト)しかありませんでした。現在はバオベト(現在も政府系)のほか、プルデンシャル(本社は香港)、第一生命(日本)、マニュライフ(カナダ)、AIA(香港)がトップ5(または香港のFWDを含むトップ6)がシェアを分け合っています。つまり、市場シェアの多くを外資系が押さえている状況です。
現在の主力商品は投資型保険(死亡保障が付いた資産運用商品)で、2010年代半ばから銀行を通じた販売によって高い成長を続けてきました。こちらでは保険会社が銀行と長期間の独占販売契約を結ぶのが一般的なようで、例えば第一生命ベトナムも2015年以降、こうした提携販売を進めています。

ところが、2022年末あたりから、マニュライフの提携銀行による販売で苦情が発生したのをきっかけに、他社の銀行窓販にも波及して、銀行窓販への信頼が大きく損なわれるという事態が生じたそうです。

・銀行の貯蓄性商品だと認識して購入したら、後から保険会社の商品だとわかった
・銀行から融資を受ける際、保険加入を強いられた

加えて、政府による規制が急に厳しくなったということも背景にあるようですが、そもそもベトナムの銀行窓販はかなり歪んだ市場になってしまっていたようです。

監督当局の調査によると、銀行チャネルで加入した契約者の1年後の継続率が20%程度だったとか。大半の加入者が初回の保険料しか支払っていないということで、銀行は「保険に加入するとローンが有利になる」として勧誘し、顧客もそのほうが有利だからとわかったうえで保険に加入する。その原資は保険会社が負担するという構図です。
銀行は保険会社から代理店手数料を受け取る(早期解約時の返還制度はなさそうです)ほか、独占販売契約を結ぶ際にも多額のフィーを受け取っています。だから、顧客に有利なローンを提供できるというわけです。

第一生命のIR資料では、第一生命ベトナムの減収について「業界全体の銀行窓販チャネルのモメンタム低下によって初年度保険料が減少」とあるのですが、こういうことだったのですね。
日本と同じ目線で見ているだけでは海外市場の経営リスクはわからないということを、改めて実感しました。

※ホーチミンのカフェビルです。

 

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急務なのは会計見直しではないか

生命保険会社の第3四半期(4-12月期)決算を受けた報道ですが、さすがにこれはひどいミスリード記事だと思いました。
2月20日の日経「生保 国内含み損11兆円」という記事で、「保有資産入れ替え急務」という小見出しまで付いています(さらに言えば、紙の新聞では同じ面に「農林中金、運用の改革急ぐ」という記事があり、あたかも次は生保と言わんばかりの構成です)。
今回はベトナムの話を書こうと思っていたのですが、こちらを取り上げることにしました。

生命保険会社は多額の超長期債を保有しているため、金利上昇により国内債券の含み損が拡大しているのは事実です。しかし、あたかも生保が資産運用に失敗し、含み損の解消が急務とでも言うような見出しと内容は事実に反しています。
来年度から新たな健全性規制が導入され、経済価値ベースの貸借対照表をベースにしたソルベンシー・マージン比率が入るのは、少なくともご担当のかたならよくご存じのはず。それなのに資産サイドの時価変動だけに注目した記事が大々的に出てしまうのは、いったいどうしてなのでしょうか。

金利上昇によって生じた国内債券の含み損に注目するのであれば、「責任準備金対応債券という保有区分が認められていて、含み損益が実現しなければ収益に与える影響は限定的」などという説明よりも、

・負債サイドの評価はどうなっていて、全体としてどうなのか
・金利上昇でどの程度の解約が生じ、それが債券の実現損につながっているのかどうか
・国内債券の減損を求められる可能性(およびその是非)について
・経済価値ベースでは意味のない国内債券の入れ替えを各社はなぜ行っているのか

などを取り上げてほしいです。
この記事を見た契約者が心配になって解約に走らないことを祈ります。

日経報道だけではなく、Bloombergでも「大手生保3社で国内債売却損4700億円、運用資産健全化-4~12月」と、国内債券の含み損を問題視する論調です。他方で、内部管理上の経済価値評価に基づいた指標を公表していても、どのメディアも報道しません。
特に決算報道では、メディアの関心は会計損益とその変動要因にあるようなので、つまるところ会計を変えないと、せっかく新たな健全性規制を入れても、いまの報道姿勢は大きく変わらないおそれがあります。

拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』の第3章で述べたように、金融庁は契約者保護の観点からも、企業価値の向上を目指す観点からも、保険会社の経営内容を把握するうえで、経済価値ベースのソルベンシー規制と親和的な監督会計(結果として会社法や金商法の会計も変わります)の策定を急ぐべきだと、改めて強く思いました。

念のため、過去のブログ記事もリンクしておきます。
国内債の含み損(2024.8.18)
「中堅生保、債券偏重の死角」(2024.9.14)

※ホーチミンで開業したばかりのメトロに乗りました!

 

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大手損保の第3四半期決算から

旅に出る前に少しだけコメントを。
予想どおりではありますが、政策保有株式の売却益が会計利益を押し上げています。この状況がしばらく続くのでしょう。
含み益が実現益になっただけですので、過去最高益などと言ってもほとんど意味がないことがよくわかります。

他方で、今回の自動車保険のEI損害率を見ると、ADIは何か別の要因がありそうですが、総じて当初の見込みよりも悪化しているのではないでしょうか。

TMN 67.9% ⇒ 71.1%(+3.2p)
MSI 68.2% ⇒ 71.2%(+3.0p)
ADI 70.0% ⇒ 69.4%(-0.6p)
SJ  69.1% ⇒ 72.9%(+3.8p)

※前年同期との比較

ここまで損害率が悪化すると、おそらくコンバインドレシオが100%を大きく上回り、数百億円規模の減益要因となってくるように思います。

ということで、短くてすみません。

※14日は横浜にいてよかったです!

 

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火災保険の誕生

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1268(2025.2.10)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
福岡でも積雪を覚悟していたのですが、市内ではほとんど積もることはなく、拍子抜けでした。北九州や佐賀ではだいぶ積もったようなので、不思議なものです。
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雪害の補償

この冬1番の強い寒波の影響で、福岡市の最低気温は氷点下まで下がりました。雪害を被った全国の皆さまにお見舞い申し上げます。
火災保険が実質的に「自然災害保険」になって久しいとはいえ、風水災害だけではなく、雪による災害も火災保険の補償対象となっていることを知らない契約者は意外に多いのではないでしょうか。特に、普段はあまり積雪のない地域では、雪害補償を知らせるいい機会かもしれません。

火災保険のルーツ

もともと火災保険は、文字どおり火災による損害を補償するための保険として登場しました。
イギリスで火災保険が生まれたきっかけは、1666年に発生したロンドン大火と言われています。当時のロンドンではほとんどの家屋が木造で、道路も狭く、この大火によって市街の約8割が燃えてしまいました。
そこで大火後のロンドンでは、非木造の耐火建築が推奨されるとともに、すでに存在していた海上保険をヒントに、火災保険を提供する会社が相次いで設立されました。これが世界の火災保険のルーツの1つとされています。初期の保険会社であっても、火災の発生率や建物の数から保険料を算出していたそうです。

日本での対応

ところで、日本でもロンドン大火と同じころ(1657年)、江戸で明暦(めいれき)の大火が発生し、やはり市街地の大半が焼けてしまいました。その後、道幅を広げるなどの防火対策は取られたものの、大火後の復興期に火災保険のような補償制度が誕生したという記録はなさそうです。
その一方で、江戸幕府は消防制度を充実させていきます。もともとあった大名火消(だいみょうびけし)に加え、大火の翌年には幕府直轄の「定火消(じょうびけし)」を組織しました。さらに18世紀には、町人のための消防組織である町火消(まちびけし)を制度化しています。

ロンドンの消火活動は保険会社が担う

火災保険が生まれた当時のロンドンには、組織的な消防隊がありませんでした。そこで、保険会社は補償を提供するだけではなく、自前の消防隊を持ち、消火活動を行いました。自ら消火活動を行うことで、保険金の支払いを減らそうとしたのですね。火災保険の加入者の家には保険会社の「ファイアマーク」が掲げられ、消火活動の目印となっていました。
ロンドンの消防組織が公営となるのは19世紀になってからです。

同じ17世紀の大火の後、イギリスでは火災保険が生まれ、日本では公的な消防組織ができたのは、あくまで素人考えですが、当時の社会構造の違いが大きかったように思います。
当時のイギリスはピューリタン革命後の王政復古の時代で、王権が絶対的なものではなく、かつ、海上貿易で覇権争いをしていた時代でした。力をつけた商人たちには、自らの財産を自らで守るニーズがあったはずです。そこで、公的な消防組織が整備される前に、民間で消火活動を行う火災保険会社が誕生したのではないでしょうか。
他方、当時の日本は江戸幕府による統治が安定期を迎える一方、貨幣経済の発達はこれからという時代でしたので、イギリスのような民間による民間のためのしくみが登場する素地はなかったと考えられます。

なお、火災保険には他にも源流があります。民間が主体のイギリスとは違い、17世紀のドイツ(ハンブルク)では、規模の小さい複数の相互扶助組織を一本化して、公営の火災保険組織が誕生しました。
明治時代の日本では、当初このドイツの公営火災保険制度の導入を検討したそうです。しかし、政府は最終的には民営を採用し、1888年に日本初の火災保険会社として東京火災保険会社(現在の損害保険ジャパン)が業務を始めました。
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書評『日本の歴史的建造物』

1月31日(金)の夜、NHK大阪「かんさい熱視線」という報道番組に、ファイナンシャルプランナーの清水香さんとともに生出演してきました。関西地区限定の放送ですが、NHKプラスであれば2月7日まで視聴可能です。
テーマは「火災保険の値上げへの対応」で、私は保険会社経営の視点からコメントしました。ご覧になったかたのなかには、「いやいや、火災保険は赤字が続いているかもしれないけれど、大手損保は過去最高益を更新しているのだから、保険会社寄りのコメントをしやがって」と思ったかもしれません。
しかし、火災保険の赤字を生保や海外など他の事業(資産運用収益を含む)で補うという収支構造は、保険会社として健全ではありません。リスクに応じた保険料を集めるのが保険が成り立つ大前提です。それに、もし皆さんが加入している生命保険が大幅な黒字で、保険会社から「これで火災保険の穴埋めをさせてもらいます」と言われたら、納得できるでしょうか。

さて、週刊金融財政事情(2025年1月21日号)に載った書評「一人一冊」をこちらでもご紹介します。今回は光井渉さんによる『日本の歴史的建造物 社寺・城郭・近代建築の保存と活用』を取り上げました。以下、引用となります。

歴史的建造物の「正しい」在り方とは

一昨年の夏、長崎を訪れた際に出島に立ち寄った。説明するまでもなく、出島は鎖国下の江戸時代に、西洋と直接交易を行っていた唯一の場所である。明治になって役目を終えた出島は、周囲の埋め立てで姿を消した。しかし、1950年代から長崎市による復元事業が始まり、今ではオランダ商館長の事務所・住居をはじめ、鎖国期の建物がいくつも復元され、長崎らしい人気の観光スポットとなっている。
見学を終えて、歩き疲れた私は出島内にあるクラシックな洋館(長崎内外倶楽部)のレストランに入り、長崎名物ミルクセーキを味わったのだが、そこでふと気が付いた。この洋館が建てられたのは明治36年とのことなので、当然ながら鎖国時代の出島には存在しなかった建造物である。それなのに、どうして復元した出島に存在しているのだろうか。

本書の第四章によると、当初の整備構想では、史跡的な価値を重視して出島内の洋館群を取り壊し、江戸時代のオランダ商館
を再現することが検討された。だが、他方で長崎市は山手地区などに残る洋館群を町並みとして保存する施策を進めており、洋館の取り壊しはその方針に反する。そこで、出島の範囲を三つに分け、それぞれ異なる時代設定で保存ないしは再現することにした。
商館の再現に当たっては歴史に対する最大限の配慮がされたとはいえ、結果として、かつて一度も存在しなかった景観が出現してしまったのである。

ここまで分かりやすい事例は少ないかもしれないが、歴史的建造物の再現とは、再現時において意識的に選び出した、いわば「理想としての過去」だと気付かされた。
社寺や城郭、あるいは出島のような史跡ではなく、文化的な価値が認められる民家や近代建築(特に都市部)の保存となると、さらなる壁があるという。現代的な活用が提案できないと保存が実現しない一方で、現代的な活用には「リノベーション」が必要で、それによって何らかの文化的な価値を失うことが避けられない。
日本建築史を専門にする著者は、これに対する確たる回答は見出されていないとした上で、部分的な変更や更新を許容しつつ全体としての特質や価値を保持しようとする「インテグリティ」という概念が重視されるようになっていると指摘する。

観光で社寺や城郭を訪れたり、重要伝統的建造物保存地区に選ばれた町並みを散策したりした際には、これらの文化的な価値だけではなく、保存の在り方についても考えてみてはいかがだろうか。

 

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自動車ディーラーの保険金不正請求

報道のとおり、トヨタ自動車直営のディーラーであるトヨタモビリティ東京と、中古車販売大手のグッドスピードに対し、金融庁(関東財務局・東海財務局)は24日に保険業法に基づく業務改善命令を出しました。
処分の理由をそれぞれ読んでみたのですが、まあひどいです。

トヨタモビリティ東京は、2020年2月に保険金の過大請求等が多数判明したと公表し、さらに2021年9月には不正車検で国土交通省から行政処分を受けました。しかし、立入検査を実施したところ、保険金不正請求の社内調査が部分的・限定的で不十分だったうえ、他にも不正請求疑義事案が多数あることが判明したそうです。
「当社経営陣は、保険事業に関しては、『本業ではない』との意識が根底にあり、同事業に保険業法等に精通した十分な人的リソ-ス(質・量)を配賦していないほか、人材育成も行っていない」という指摘まで書いてあります。

他方、グッドスピードも、不適切な保険金請求疑義事案が発生しているとの報道を受けて社内調査を実施し、さらに、取引銀行の意向を踏まえた2回目の社内調査を行ったにもかかわらず、立入検査を実施したところ、十分な調査を行っていない可能性があるうえ、調査委員長が結果内容を改ざんするなど極めて不適切な行為が認められたとのことです。
こちらにも「経営陣は、保険募集に関する業務を全て担当役員任せとし、同役員からリソースの問題を含む保険募集管理態勢の状況を報告させておらず、実態を把握することを怠っており(後略)」という指摘があります。

自動車販売業界は、もはや旧ビッグモーターは特殊な事例だと言えなくなったのではないでしょうか。

なお、自動車ディーラーの収益構造に関する資料を探したのですが、業界団体としては一般に公表していないようです。
以下が役に立つかもしれません。

三井住友銀行「国内自動車ディーラーを取り巻く業界動向(PDF)」(2019年9月)
日産東京販売ホールディングスの決算説明資料(例えば2024年3月期決算説明資料(PDF)

いずれの資料からも、自動車ディーラーでは自動車販売の利益率は低く、整備や保険・金融商品の手数料が経営を支えていることがうかがえます。

同僚の先生の論文もご紹介しましょう。ディーラーの営業スタッフにインタビュー調査を行い、スタッフの専門性を探ったものです。この会社での「付加価値」とは顧客への付加価値ではなく、会社の利益につながるかどうかなのですね。
大卒ホワイトカラーのキャリア形成に関する研究(PDF)

※写真は福岡タワーです。

 

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大手生保の営業職員

とある原稿執筆の関係で、大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の営業職員数の推移を確認する機会がありました。
2021年に出した拙著『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』では、第11章で生命保険の営業職員チャネルを取り上げていて、次のような記述があります。

「大手4社のデータを見ると、2000年代前半までは毎年在籍数の4割程度にあたる営業職員が退職していました」(149ページ)

各社のディスクロージャー誌には営業職員の在籍数と採用数が載っているので、そこから試算した退職数をもとにした記述となります。この計算方法では入社した年度内に退職した職員は含まれず、やや過小評価となっていますが、各社のデータを確認すると、1990年代後半から2000年代前半にかけての退職率(期首在籍数に対する退職数の割合)は各社ともざくっと言って4割前後で、当時は在籍数の減少も続いていました。
しかし、2000年代後半から退職率は低下傾向となり、在籍数の減少傾向にも歯止めがかかります。拙著では次のように記しています。

「2005年に発覚した保険金不払い問題を経て、各社は新契約に過度に偏重した営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業活動に舵を切りました。採用後の教育を重視し、固定給を増やすなど、早期退職を減らす取り組みもターンオーバーの改善に効果を上げたと考えられます」(150ページ)

それでは足元ではどうなっているかというと、日本生命、第一生命、住友生命の3社は、新型コロナの影響を受けた2020年度をピークに在籍数を年々減らしているのに対し、明治安田生命の在籍数は増加傾向となっています。直近(2023年度)の退職率は日本生命と住友生命が18%台、明治安田生命が17%弱、第一生命が13%強で、第一生命の退職率が際立って低く、明治安田生命は退職率の上昇を抑えつつ在籍数を増やしていることがうかがえます。

他方で4社に共通しているのは営業職員の性別です。例外なく、在籍数に占める女性営業職員の割合は97%以上となっていて、採用した職員もほぼ100%女性となっています。ここまで徹底しているとはちょっと驚きですね。

※写真はソウルでいただいたナツメ茶です。

 

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ガバナンス改革とメディア

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1264(2025.1.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。前回のブログ記事(次期社長の選任)がやや舌足らずだったので、同じテーマを取り上げました。
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次期社長の選任

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
さて、新年最初の個人ブログ(保険アナリスト植村信保のブログ)では、気になるニュースとして日本生命保険の社長人事報道を取り上げました。
日本生命は2022年にコーポレートガバナンス体制を刷新し、監査等委員会設置会社に移行するとともに、社外取締役が過半数を占める「指名・報酬諮問委員会」を設置しました。つまり、社長選任のプロセスが従来とは大きく変わったはずなのですが、残念ながら今回の社長人事でも、「現社長から『次を頼む』と告げられ、即断した」という記事はあっても、新たな選任プロセスを踏まえた報道は見当たりませんでした。

「社長が社長を選ぶ」でいいのか

読者の皆さんのなかには、今の社長が次の社長を選ぶのは当然と考えているかたが多いかもしれません。しかし、コーポレートガバナンスの観点、すなわち経営者への規律付けという観点からすると、現社長が次期社長を選ぶのは好ましくありません。現社長が有能な後継者を選ぶとは限りませんし、社長OBがいつまでも社内で力を持ち続けることになりかねません。
社長やCEO(最高経営責任者)の選解任は取締役会の仕事であり、持続的な成長のためには無能な経営者を選ばないように、客観性・透明性の高い手続きが求められています。

上場企業の行動原則を定めた「コーポレートガバナンス・コード」には、「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」(補充原則4-3(2))とあります。

ガバナンス改革とメディアの役割

日本生命は上場企業ではなく、コーポレートガバナンス・コードの適用対象ではありませんが、相互会社に該当しないと考えられるものを除き、ガバナンス・コードの各原則のすべてを実施しているとのことです。日本生命が任意に設置した指名・報酬諮問委員会は、社長の選解任を支援する機関であり、ガバナンス・コードに沿った取り組みでもあります。
しかも、日本生命の社外取締役で、指名・報酬諮問委員会の委員長を務めている牛島信弁護士のインタビュー記事によると、前回の社長選任でも社外取締役との打ち合わせが何度も行われたそうなので、今回もガバナンス上、きちんとしたプロセスを踏んで社長を選任したのではないかと思います。

問題はこうした選任プロセスを報じないメディアの姿勢です。もちろん、詳細な説明をしない会社にも問題はありますが、メディアは記者会見などでもっとガバナンスに関する説明を求めるべきです。
ガバナンス改革が進み、形式面だけではなく実体を伴っているかが問われているなかで、メディアはいつになったら「社長が社長を選ぶのを当然視したかのような報道はおかしい」と気づくのでしょうか。
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※今年最初の海外旅行はソウルでの学会発表でした。

 

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次期社長の選任

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
例年とちがい、今年はこの土日まで正月休みのようでいいですね。明日(6日)からは通常運転に戻らなければ。

さて、多忙な12月にスルーしてしまった「気になるニュース」に、日本生命の社長人事の報道がありました。何が気になったのかと言うと、次期社長選任のプロセスについての報道が従来と変わっていなかったからです。
日本生命のニュースリリースには取締役会の決定事項しか掲載がなく、記者会見でも質問がなかったためか、社長選任プロセスに関する報道は相変わらず以下のようなものでした。

「『次を頼む』。日本生命保険の朝日智司副社長は11月下旬、清水博社長から次期社長の打診を受けた」
(2024年12月19日の日経新聞)

「清水氏から後任を打診されたのは11月下旬。数々の出資・買収を主導し、事業拡大の土台づくりにめどを付けた清水氏から『次を頼む』と告げられ、『果たす役割があるなら全力を尽くしたい』と即断した」
(2024年12月22日の時事通信ニュース)

「国内保険事業に精通した朝日氏の登用で、着実な成長を続ける狙いがある」
(2024年12月19日の朝日新聞)

「清水氏は『多面体を広げていくには中心がしっかりしていないといけない。その中心は国内生命保険事業だ』と強調。営業経験が豊富な朝日氏を後任に選び、人口減少で市場の縮小が見込まれる国内保険事業についても強化していく構えを鮮明にした」
(2024年12月19日の毎日新聞)

日本生命は2022年にコーポレートガバナンス体制を刷新し、監査等委員会設置会社に移行するとともに、社外取締役が過半数を占める「指名・報酬諮問委員会」を設置しました。つまり、次期社長は現社長が決めるのではなく、指名・報酬諮問委員会の審議を経て、取締役会が決め、総代会の決議を求めるという流れのはず。清水さんが社長になったとき(2018年)とは選任プロセスが変わったはずなのですが、残念ながらその違いが外部からは全く見えませんでした。

同委員会の委員長を務める牛島信弁護士は約1年前、2023年12月19日のNIKKEI Financialのインタビュー記事で前回の社長人事について、「当時の筒井社長が次期社長の選任にあたって、社外取締役と話し合わないといけないと強く考え、3〜4回、話し合いの場を持った」と語っています。
さらに、「(新体制でも次の社長は)取締役会で決めることになるが、指名・報酬諮問委員会の考えが重視されるだろう」とも述べています。しかし、今回の人事について日本生命からは今のところそのような説明はなく、メディアもまるで現社長が次期社長を決めたかのような報道を続けています(もしかしたらそうなのかもしれませんが)。

詳細な説明をしない会社にも問題はありますが、メディアは記者会見などでもっとガバナンスに関する説明を求めるべきです。特に日本生命は相互会社形態で株主が存在しないので、こうした機会にメディアがしっかり見ていかないと、経営への規律が働きにくいということを理解してほしいですね。

ということで、本年も引き続き週1くらいのペースでブログを更新していくつもりです。
お付き合いいただければ幸いです。

 

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火災保険のモニタリング高度化

12月24日に金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書が公表されました。
すでに12月10日のブログ「損保WG報告書案が判明」で触れているので、それとは別の観点から2つコメントします。

1つは保険業法だけではなく、「改正金サ法」(2023年に改正された「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」)や「顧客本位の業務運営に関する原則」に関する記述が盛り込まれていることです。
金融審の市場WGでは主に家計における資産形成を念頭に議論が進められ、実際、WGのオブザーバーに損害保険関係の業界団体は入っていませんでした。しかし、今回の報告書を読むと、「保険募集人全般においてもその(=顧客本位の業務運営の)定着が望まれるところであるが(後略)」「改正金サ法により、保険募集人を含む全ての金融サービス提供事業者に対し、顧客等の最善の利益を勘案して誠実かつ公正に業務を遂行する義務が明記されたことも踏まえ(後略)」と、損害保険代理店でも顧客本位原則の採択が当然視されています。

もう1つは、火災保険の赤字構造の改善等のところで、リスクに応じた適切な保険料の設定等が確保されるための態勢をモニタリングしていくとあるのですが、報告書ではそもそも「あるべき姿」としてどのような態勢を念頭に置いているのか気になりました。
21ページの注記には、モニタリング高度化の具体例としていくつか書いてありますが、かなり漠然とした内容です。第1線の営業部門・業務部門による引受規律を期待しているのか、あるいは第2線のリスク管理部門の機能に期待しているのかなども気になりますし、リスクベース・プライシングなのに「資本コスト」「再保険」といった記述が出てこないのも不思議です。
さらに言えば、仮に態勢ができていたとしても、実行されているかどうかを外部からモニタリングするには、かなりの専門性が必要となるように思います。

※今年は飛行機によく乗りました。

 

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