マイクロソフトのInternet Explorer(IE)がシェア9割を超える現状を打破し、ブラウザ開発競争を再燃するきっかけとなるか。かつてNetscape Navigatorでインターネット普及の基礎を作ったモジラ・ファンデーションの新ブラウザ「Firefox」のニュースです。
2004年12月、日経パソコン
英語版Firefoxは925万件のダウンロード
日本版も48万ダウンロードを記録
2004年11月9日に登場した「Firefox(ファイヤーフォックス)」、英語版は公開日から既に約925万件のダウンロード実績がある。日本語版も無料で利用でき(Webサイトはwww.mozilla-japan.org)、12月上旬現在、48万件を超えるダウンロードを記録している。
Firefoxはセキュリティに配慮した設計
現状は9割以上がIE利用
2004年12月現在、インターネットを利用しているユーザーの9割以上はマイクロソフトのInternet Explorer(IE)を利用していると見られる。しかし、IEの最新版であるIE6は2001年の登場から既に3年以上が経過。この間にもインターネットはさらに進化を遂げており、実はIE6が対応していない機能も増えている。
新技術取り込み、人気のFirefox
タブ機能で複数Webサイトを切り替え表示
Firefoxを支持する声が増えているのは、設計が新しいため新技術を多く取り込み、かつユーザーが使いやすい設計になっているからだ。例えば「タブ」機能。複数のWebサイトをタブで切り替えて表示できる。常時接続のユーザーに便利だ。
RSSリーダー標準装備
IEでは未対応
「RSSリーダー」も標準で備える。これはニュースサイトの見出しやブログの見だしを自動的に巡回・チェックして表示できる機能。IEではまだ未対応だ。
安全なブラウザ
設計段階からセキュリティ対策
さらにユーザーに大きなメリットをもたらす点がある。IEよりもセキュリティに優れているのだ。Firefoxの開発を取り仕切る米モジラ・ファンデーションのクリス・ホフマン氏は「設計段階からセキュリティ対策を取り入れることで安全なブラウザに仕上げた」と語る。
ポップアップブロック機能
実際、使ってみるとFirefoxが最近のセキュリティ事情を考えて設計されているのがよく分かる。一つは、Webサイトを表示すると次々に小さい画面が表示されるポップアップ広告を排除できる「ポップアップブロック」機能。IEにはこの機能はなく、Windows XP SP(Service Pack)2でようやく取り入れられた。
フィッシング詐欺への対策
SSL擬装サイトに気づく仕組み
さらに日本でも増えてきたフィッシング詐欺への対策機能も備える。Firefoxではセキュリティを確保する「SSL」規格を採用したWebサイトを表示すると、アドレスバーが黄色で表示される。最近ではSSLに対応しているかのように偽装して、ユーザーからクレジットカード情報などをだまし取るWebサイトもあるが、Firefoxならこういった場合に偽のサイトであることに気が付くわけだ。
Windows Updateは動かない
ActiveXには対応せず
半面、デメリットもある。音声や動画などのコンテンツをIEで扱うためのマイクロソフトのActiveXコントロールを実行できないこと。Firefoxでは「セキュリティを考えてActiveXには対応しない」というが、ActiveXコントロールを使用しているWebサイトも多い。例えば、Windows UpdateはActiveXを利用しており、ユーザーはわざわざIEでWindows Updateを実行する必要がある。
Firefox未対応サイトも多い
東京三菱銀行のオンラインバンキング
Firefoxに対応していないWebサイトもある。例えば主要銀行のオンラインバンクはIEとNetscapeの2つのブラウザに対応していることが多いが、Firefoxは対応ブラウザにはまだ入っていない。試しにアクセスしてみたところ、東京三菱銀行のオンラインバンキングでは、利用することができない旨が表示された。こうした状況では、多くのユーザーがIEから乗り換えることをためらうだろう。
開発元は米モジラ・ファンデーション
Netscape Navigatorで一世を風靡
突然、登場した感のあるFirefoxだが、インターネット普及の基礎を作った「Netscape Navigator」の系譜を受け継いでいる。開発元は米モジラ・ファンデーション。モジラ・ファンデーションはブラウザの開発などを目的として2003年に設立された。Netscape Navigatorは1990年代半ばに一世を風靡(ふうび)した後、IEとのブラウザ競争に敗れた。開発元の米ネットスケープ・コミュニケーションズは1998年に米AOLに買収された。その後、AOLはモジラ・ファンデーションを設立し、独立した組織としてブラウザの開発を始めた。製品はオープンソースとして開発されており、世界中から技術者が参加している。
モジラ開発のメールソフトも登場
メールソフト「Thunderbird」
モジラはFirefoxのほか、メールソフトの「Thunderbird」、さらにメールソフトやHTMLエディターなどを統合したWebソフトの「Mozilla Suite」の開発を進めている。Thunderbirdは2004年12月に日本語版が公開される。このソフトは、迷惑メールの対策機能やデジタル署名などセキュリティに配慮した設計になっており、テストユーザーや専門家の評価も高い。
ブラウザ開発競争
ユーザーの不満が高まるIE
登場したばかりのFirefoxの人気急上昇は、競争がなくなったため進化のスピードが鈍っているIEに対して、ユーザーの不満が高まった結果とも言える。Firefoxの存在が、ユーザーに利便性をもたらすブラウザ開発競争を再燃するきっかけとなることを期待したい。
日本でもじっくりと普及を
Mozilla Japan
日本市場でも順調にスタートを切ったFirefoxをどう育てていくのか。日本での開発やサポートを担当するMozilla Japanの瀧田佐登子理事に聞いた。
米モジラ・ファンデーションの日本支部
2004年11月の世界同時リリース後、日本でも40万件以上のダウンロードがあり、ユーザーに利用されている。日本では2004年8月に米モジラ・ファンデーションの日本支部としてMozilla Japanを設立した。日本語版の開発はこちらで統括する体制になっている。
Web環境の構築やコンサルティング
FirefoxやThunderbirdを軸に
日本でのビジネスはまだこれからの段階。現在はFirefoxやThunderbirdを軸にWeb環境の構築やコンサルティングをビジネスとして考えている。セキュリティの面から関心を示してくれる企業のシステム担当者も多い。ただIEが普及している中で、さらに新しくブラウザを使うのは企業にとってはなかなか難しい面も多いのは事実。セキュリティなどを重視するユーザーに使ってもらえるようにじっくりと働きかけていく。
新しい技術を採用したFirefox
ユーザーの要望を取り入れたブラウザ
- タブ機能
- 複数のWebサイトを簡単に切り替えることができる
- 検索バー
- GoogleやYahoo!の検索機能を備える
- RSSリーダー機能
- Blogやニュースサイトの見出しを表示できるRSSを持つ
Firefoxはセキュリティに対する配慮や使いやすさなどユーザーの要望を取り入れたブラウザ。IEが持たない機能も多く備える
機能が豊富な半面、IEはまだ手放せない
Firefoxのメリット
- フィッシング詐欺やスパイウエアなどを防ぐセキュリティを意識した設計
- Java Scriptの動作を細かく設定したり、ポップアップ広告などをブロックしたりするセキュリティ機能を備える
フィッシング詐欺でURLを偽装できないように、SSLを使った正規のサイトではアドレスバーを黄色で表示する - 使いやすさを重視してタブ機能やRSSリーダーなど新しい技術を採用
Firefoxのデメリット
- ActiveXコントロールに対応しておらずWindows Updateが利用できない
- ActiveXコントロールには対応していないため、Windows Updateは実行できない
- IEとの互換性が完全でないため、未対応や正しく表示できないWebサイトがある
- Webサイトによっては、Firefoxに対応していないため利用することができない
米モジラ・ファンデーションが開発する主な製品
米モジラ・ファンデーション
- 描画エンジンGecko開発
- 米AOLブラウザのNetscapeに採用
- Firefox
- ブラウザ
- Mozilla Suite
- 統合Webソフト
- Thunderbird
- 電子メールソフト
FirefoxやThunderbirdなどのほか、HTMLを表示する描画エンジン「Gecko」もオープンソース。こちらは米AOLも次期Netscapeに採用する予定